國體の本義 前田慶一 現代語訳
上巻
國體(国体) 國體の本義(国体の本義)
明治天皇の新政
明治天皇は孝明天皇(こうめいてんのう)の第二の皇子でいらっしゃり、嘉永(かえい)五年のお生れで、英明剛毅でいらっしゃっいました。
幼い頃、父の天皇に従って、京都御所の日の御門において、藩兵の演習を御覧になったとき、大砲・小銃の音は大きく激しく、百の雷が一辺に落ちたかのようで、人々は身を震わせていたのですが、天皇は平常のように、顔色もお変えにならず、終始、御熱心に諸兵の動きを御覧になっていらっしゃたといいます。
天皇は、御年十六で皇位にお即きになりましたが、間もなく徳川慶喜(とくがわよしのぶ)が大政奉還を行ったので、今後は、重大なことから小さいことまで、朝廷から命令を天下に号令することになりました。
三条寛美(さんじょうさねとみ)・岩倉具視(いわくらともみ)・西郷隆盛(さいごうたかもり)・大久保利通(おおくぼとしみち)・木戸孝允(きどたかよし)等の勤王の人々を挙げて用い、かずかずの政治の事柄にあたらせました。
これで、長い間にわたった武家の政治は終わって、天皇が御自身で、天下の大政をご統治される國體の本に立ち返りました。これを明治維新(めいじいしん)といいます。
天皇は、維新の政治を盛んにし、国民を安心させようとなさって、明治元年三月に紫宸殿(ししんでん)においでになり、文官・武官の諸々の臣下とともに、御自ら、新しい政治の方針を地の神々にお誓いになり、これを国民にお示しになりました。その文は、
一、広く会議を興し万機公論に決すべし。
一、上下心を一にして盛に経綸を行ふべし。
一、官武一途諸民に至るまで各其の志を遂げ人心をして倦まざらしめんことを要す。
一、旧来の陋習を破り天地の公道に基づくべし。
一、智識を世界に求め大いに皇基を振起すべし。
【謹解】
一、広く一般にわたって会議を興して、国家のすべての政事は、公平な天下一般の論議によって決定せよ。
一、上に立つ者も、下に居る一般国民も、皆心を一つに合わせて、一致協力し、熱心に国家を治め整えることを行え。
一、文官も武官も皆一様に、一般の国民に至るまで、皆各自その志し望むところを成し遂げさせて、才能のあるものはこれを抜擢し、人の心を倦まさないように、常に発奮努力させることが肝要である。
一、昔からの悪い風俗風習を打ち破って、積極進取による改良に努め、天地の間の正しい道理に基づいてことを行え。
一、知識を広く世界中から求め、洋の東西を問わずその長所を取り入れて、大いに国家の基礎を振い起こし、皇威を発揚させよ。
これを五箇条の御誓文(ごかじょうのごせいもん)といいます。日本の政治の大本は、ここに定まりました。
これより先、大久保利通が説いた、人心を新しくするため、都を京都から移すべきであるという意見を取り入れになり、江戸を東京と改めて、この地に天皇は、お越しになることになりました。鳳輦(ほうれん:天皇の乗るお車)は、ゆるやかに京都御所をお出になり、途中、伊勢神宮を参拝され、東海道をお下りになりました。そして、東京の皇居にお入りになりました。
沿道の国民は、これをあがめて、皆、感涙を流して喜び合いました。それから、天皇は、京都にお戻りになり、皇后をお立てになり、次の年、明治二年、再び東京にお越しになり、長く東京で大政を執り行われました。
しかしながら、大名の領地は、いまだ元のままであり、朝廷の命令が行き渡らなかったので、木戸孝允は、大名の支配する土地や人民を朝廷にお返しすることを考え、天皇は、その進言を取り入れました。長門(ながと)・薩摩(さつま)・肥前(ひぜん)・土佐(とさ)の四人の藩主が、まず、相次いで奉還するに及んで、他の諸藩主もこれに倣いました。
朝廷は、奉還の願いをお許しになり、しばらくは、旧藩主をもって、それぞれの地を治めさせていましたが、明治四年になって、全ての藩を廃止して県を置き、新しく知事を任命になりました。この時にも、家柄のみを重んじる習わしをやめて、広く人材を選出しました。ここに至って、天下の政治の全ては、朝廷から発せられ、明治維新の大業は初めて成し遂げられました。
朝廷は、新しく学制を定めて、国民に平等な教育を受けさせ、また、徴兵令を敷いて、国民の全てを兵役につかせることとされたので、世の中の有様は一変しました。
このようにして、国内の政治は大いに整うと同時に、外国との関係もまた、大きく変わりました。朝廷は、世界の大勢を見渡して、諸外国と和睦する方針を御定めになりましたが、次に、条約を結んだ国に公使を置き、岩倉具視(いわくらともみ)等を欧米諸国に遣わして、ますます親善を深め、合わせてその文明を視察させました。


壮年期 軍服姿
青年期 御正服姿
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